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何!?また発電所が止まった!?
また核燃料の精製が間に合わないのか!
全く、逆反応で空気中からウランを生成するという折角の技術も、こう時間が掛かる様では精製施設の数を増やすしかないではないか。
しかし、その様な資金も資材も土地も、この崖には不足している。
資源も無い、エネルギー源もない、こんな罰ゲームの様な崖に赴任させられるとは・・・私も焼きが回ったものだな・・・
ん?
おや、コレは失敬。
私がこの崖帝国を構成する崖都市の一つ「カスケード」の行政監督官だ。
君には我が都市の現状を知って頂き、是非ともマスコミを通じ、世論に訴えかける手助けをしていただきたい。
期待している。
先ず、我が都市の概略をお話しさせて頂こう。
皇帝陛下が治める崖帝国は、地球上の崖の上に建造された3つの都市から成り立っている。
その3つの崖都市のひとつがこの「カスケード」だ。
特徴は・・・何もない事が特徴と言える。
文字通り、生活基盤となり得る資源埋蔵量が低レベル。また、エネルギー資源ともいえる日照量・風力は最低レベルだ。唯一の長所は原子力の元であるウラン埋蔵量だが、それも他の崖の半分以下である。
エネルギーに関しては太陽光・風力発電所を建造しても微々たるエネルギーしか得る事が出来ない。といって多くの施設を立てる様な土地は無い。
エネルギーが無ければ都市機能を維持する事が出来ず、正に死活問題となる。そこで、この都市では、ウランを核燃料として利用する原子力発電のみで都市の全エネルギーを賄う事にしている。幸い、小さいながら湖がある為、水中ウラン抽出施設を建造する事が可能だった為、その分の土地を他の施設で有効活用できた。
更に、テクノロジー開発に時間を割き、空気中からウランを生成する逆反応炉を建造し、エネルギー資源の確保に努めている。
但し、これは諸刃の剣である。原子力は、莫大なエネルギーを得る事が出来る代わりに、ひと度地震などの災害が発生した場合、メルトダウンを防ぐ為施設を封鎖する事になっている。そうなると都市機能は完全にマヒするだろう。
だが、この都市を維持する為には、原子力のみに頼るしかないのだ。
そして、その安全対策の為、原子力発電所は崖の一地区に集中して建造してある。
基本資源であるマターの埋蔵量が少なく、工業での自立は難しい。現在は3つの家具工場の製品で何とか他の都市と交易している状況だ。
そして、この工場地区に居住区を併設している。
交易での収入が低い為、インフラ整備も思うようにいかないという負のスパイラルに陥る寸前と言える。
苦肉の策として、空き部屋やオフィスを利用したホログラム広告で微々たる収入を得ている。
ここが崖の中心部。
私の勤める市役所や裁判所、大学病院や銀行、そして軌道ステーションとの交易ドックがある。
マター採掘施設があり、ここから資材を各地に輸送する。
そして、ここには他の崖都市にはない空港がある。
空港では、作業用をはじめとするドローンの建造が可能で、そのドローン輸出も一つの収入源となっている。
という事で、現状は生活を維持する事がやっとという状況なのだ。
とにかく、原子力のお陰でエネルギーの安定供給が整っている為、バッテリーとわずかな家具を売るだけで、輸出より輸入の方が遥かに大きい赤字経済が続いている。
土地の利用率もすでに90%に達し、壁面や高層建築技術の開発が整うまでは現状で耐え凌がなくてはならない。
将来的には観光で外貨を得ないと、いつまでも赤字経済が続くだろう。
この状況を伝え、他の都市を含め住民の協力を得なければ都市機能の拡充は難しい。君の力が必要だ。是非、この状況を広く報道してくれたまえ。
2
おぉ!来てくれたか。
君を呼んだのは他でもない。
君が前回我が都市の現状を訴えてくれたお陰で、隣の都市であるクワイエットコーストがユナイテッド銀行の設立に動いてくれた。
ユナイテッド銀行は、相互扶助の考えで資金繰りが難しい都市に、自動で一定金額を振り込んでくれる施設だ。
借入金の返済もあるが、このおかげで少しづつ経済が立ち直りの兆しを見せてきたのだ。
時を同じく崖下に建設中だった地熱発電所及びカプセルバッテリーステーションが完成した。この2つの施設は地上に建設されている為地震に強い施設だ。
既にカプセルバッテリー用発電所を建設してあるので、これで、地震により原発が止まった場合でも最低限の電力が確保できる。原発のみに頼っている我が都市としては、待ち望んでいた施設の完成なのだ。
さて、資金繰りに少し目途が付いてきたところで、投資として工場の増設を行う事にした。といっても既に土地に猶予はない。そこで、壁面建築を利用し、地上の家屋を取り壊し、空いた土地に工場を誘致する事にした。
先を見据えた投資は重要だよ。
更に、発電力の強化を利用して、壁面バッテリーステーションを増設し、バッテリーを輸出する事にした。少しでも資金繰りを良くしなくては。出来る時に投資しておかなければな。
と、先が見えかけた時・・・
な、なんの警報だ!?・・・何?敵襲?
地上に降りた刑務所上がりの連中が徒党を組み、わが帝国に歯向かってきたのか!
こんな土地でも、皇帝陛下より統治を任された身。
迎撃だ!防衛システム全機緊急可動!
<続く>
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